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例の白い巨塔まがいの昼ドラ。

どこで切っていいのか分からないまま数日経過したので、ここでブチ切ります。
明日見直して、追加がなければサイトの方にupするかも。

では、どうぞ。
(いろいろとまだ何のこっちゃ分からんと思いますのでご容赦を)

↓↓read more↓↓から。










カチャリ、と微かな音を立ててドアが開く。

途端に流れ込むひんやりとした夜気に、微かな消毒液の匂いが混じっていた。
テーブルランプの灯りを頼りに、視線だけでサイドボードの時計を確かめる。
時刻は、午前四時だった。
 
スザク、と。
窓を揺らす風よりもささやかな声が背後から掛かる。
呼びかけているのではなく、ただ眠っていることを確かめるための囁きに、スザクは気付かれないようそっと目を閉じて寝息を作った。
遠慮がちな足音と、困ったような溜め息。
浅く被っていた毛布を不器用に引き上げて、それから、“彼”は決まってその大きな手で髪を撫でてくれる。
一度だけ、それも触れるか触れないかの曖昧さで。
そんなふうに記憶をなぞっただけの先読みをして、


浅ましく、期待する。

 
罪悪から生まれる羞恥に、何度目を覚ましてしまおうと考えたのか分からない。
そうすれば、二度と彼はこの部屋を訪れないことを知っていた。
こんなふうに疾しい苛立ちを覚えることもなくなるだろう。
これ以上の、どんな罪状も背負い得ない自分にとって、彼への思慕が歪んだものになることは耐え難いことだった。
間違っている、醜い感情。
認めることの出来ないその名を知っていて・・・それでも、縋りつくように、彼の臆病な優しさを裏切り続けている。
「おやすみ、・・・スザク」
 
パタンとドアが閉まるまで、まるで死体のようにピクリとも動けない。
漸く戻ってきた静寂の中で寝返りを打つと、何の余韻も残してはいないドアが聳えていた。
顔を片手で覆うと、喘ぐような溜め息が漏れた。
限界かな、と呟く。
誰に言うでもなく、自身に訴えるように。

起き上がって時計をもう一度見ると、ものの五分も経ってはいなかった。
まだ少し時間には早かったけれど、どのみち眠れそうにもない。
ジッとしていれば、ロクでもない考えばかりが浮かんでしまいそうだった。
靴を履いて軽く身体を慣らすと、上着を引っ掛けて窓を開ける。
外はまだ暗い。

けれど今は、そのことが少し、有り難かった。



 

 

מגדל בבל‎_#01





 
 
 
 


早朝の街はまるで空のマッチ箱のようだと思う。

そこには何も起こりえない。
どんな偶然が積み重なっても火はつかない。
ただ空っぽの箱があるだけだ。
その中に一本一本マッチを補充していく・・・新聞配達の仕事はそれとどことなく似ている。
地味ではあるが、確かな達成感を与えてくれるこの作業を、スザクは密かに気に入っていた。
何よりいい運動にもなって、金も稼げる。
正に一石二鳥だ。
そのためにも、普通は自転車で回る距離の区画を、スザクは敢えて走って配っていた。
初めこそ驚いていた営業所の所長も、今ではすっかりその健脚に惚れこんでいる。
「よし!これでお仕舞い!」
最後の一つを可愛らしい木造のポストに放り込んで満足げに頷くと、老齢の番犬がのそりと顔を出して尻尾を振った。
「おはよう」
お決まりの挨拶をすると、眠たげに目を瞬かせた後で鼻を鳴らす。
少し遊んで行きたかったが、腕時計に目をやって断念する。
思ったより時間がかかっていたらしい。
見上げた空の端を薄っすらと光が食んでいた。
「ごめんね、また今度」
軽く首下を撫でて断ると、休む間もなく取って返す。
閑静な住宅街の中を軽やかに走り抜け、丘の上に立つ一際大きな洋館へと進路を変えた。
厳めしい装飾が施された鉄柵と、低木の茂みに囲まれた広大な敷地。
周囲の邸宅とは一線を画した豪奢な外観は圧巻で、一個人の家というよりは城のようにも見える。
いや、城というのもあながち間違いではない。
ブリタニアの姓を持つこの家の主は、帝国と呼ばれていた時代の覇王の末裔であり、現代においても絶大な影響力を持っている。
そんな皮肉を込め、この屋敷のことを旧宮廷になぞらえて「アリエス宮」と呼ぶ者もいた。
その染み一つない白亜の壁を横手に眺めながら、まるで他人事のような顔で裏手に回った。
門扉から五分ほど歩いたところに、茂みが薄く窪んだ場所がある。
人目がないのを確かめて植え込みを少し横にずらすと、人がちょうど一人通れるほどの横穴が現れた。
器用に身をかわして潜り抜け、柔らかな芝を踏む。
子供の頃はもっと楽に通り抜けられたはずなのだが、今年で18になるスザクには少々窮屈になっていた。
高圧電流の線やら、侵入者探知のための装置がやたらと多いこの家に、こうして忍び込むのはなかなか骨が折れる。
だったら、普通に玄関から入ればいいようなものだったが、生憎そうもいかないのだ。
こんな時間に出入りしていることがばれたら、家中を取り仕切る女主人に何を言われるか分からない。
追求されて新聞配達のことを知られた日には、外出禁止になるかもしれない。
それだけじゃない。
バイト先にも迷惑が掛かるだろう。
(・・・帰りたく、ないな)
見上げながら呟いた。
周囲がどれほど羨むこの大邸宅も、スザクにとっては他人の城だ。
居場所なんてものは、初めからなかった。
この家の人間にとっては招かれざる客。
存在自体が厄介な居候なのだ。
だから、できるだけ静かに呼吸する。
足音を殺す。
邪魔にならないように、視界に入らないように。
それでいいと思っていた。

優しさや温もりなんて、もう自分には与えられる必要なんて、なかった。





「おはようございます」

身支度を整えて台所に入ると、料理番のメイドたちが朝から忙しなく働いていた。
顔馴染みの女がスザクに気付いて丁寧に腰を折る。
「おはようございます、スザク様」
「何か手伝えることはない?」
「そうですね・・・じゃあ、そこの野菜。お願いしてもいいですか?」
手近に合ったエプロンを手に取りながら聞くと、遠慮なく仕事を任される。
その気安さがスザクには有り難かった。
言われた通りに野菜を切り分けていると、最近入ったばかりの少女が手元を覗き込んで感嘆の声を上げる。
「すごい・・・スザク様は料理が得意なんですね」
あまりに純粋に驚いている少女の手を見ると、ほとんど全ての指に絆創膏が張ってあった。
恐らく包丁にまだ慣れていないのだろうが、それにしても少しひどい。
料理ではないけれど、自分にもこんな風に生傷が絶えない頃があったことを思い出して、妙に親近感が湧く。
「僕に出来るのは切るところまでだよ」
包丁捌きばかり上手くても、調味や火加減などになると、全く才能がない。
励ますようにタネ明かしをして苦笑すると、少女の頬が緩やかに赤みを増した。
なんとなく沈黙が長引く。
「え・・・と、」
「あ・・・っ、あの、私、お皿を取ってきます!」
飛び上がらんばかりの勢いで走り去ってしまった少女の背中に、スザクの「・・・嫌われたかな」という呟きが残る。
小動物を思わせるその素早さは、つい先日スザクを振ったリスを思い起こさせて、少し寂しくなった。
誰かに好かれたいだなんて、思わない。
思ってはいけない。
けれど、相手の居心地が悪くなるようなことはしたくない。
(今度から彼女と話す時はもっと気をつけよう・・・)
そう自戒していると、背後でクスクスという微かな笑い声が響いた。
慈しむような・・・それでいて無感慨のそれに、ザワリと神経を逆撫でられる。
嫌に緊張した身体は意思に反して動かず、伸びてくる腕を意識しながらもその場に留まっていた。
「鈍いのか、敏いのか・・・分からない子だな」
直接耳朶を擽られるような錯覚にゾクリと背筋が震える。
「シュナイゼル、さん」
自分でも驚くほど乾いた声が漏れる。
手から滑り落ちた包丁が、まな板の上で数度跳ねてカランと音を立てた。
確かめるまでもない。
薄布何枚か向こう側に感じる体温と匂いを、スザクはよく知っていた。
「おはよう、スザク」
軽く唇が頬に触れて、すぐに離れる。
振り仰ぐと、すぐ真上から薄い色の瞳が柔らかな笑みを向けていた。
睫毛が触れ合うほどの距離で甘く瞬いて、落ちて来る微笑。
その奥に覗く、冷え切った闇。
「・・・っ」
小さく息を呑んで唇を噛み締める。
咄嗟に俯いた顔が強張って表情を失うのが自分で分かった。
しかし、そんなスザクの異変には誰も気付かず、微笑ましいとばかりに囀るような笑いが起こる。
「本当に仲がよろしくて、まるで本当のご兄弟のようですわね」
そんな呑気なメイドたちの冷やかしに、シュナイゼルが鷹揚に答える声が聞こえた。

「ええ・・・スザクは私にとって、実の弟以上に可愛い弟ですよ」

吐き気がした。
「すみません、僕・・・ちょっと・・・」
ふらっと、口元を押さえて台所を飛び出す。
駆け込んだ洗面台に突っ伏して、息を喘がせる。
空の胃袋からは胃液だけが零れて喉を焼いた。
水道の水でそれを押し戻して顔を上げると、青褪めた自分の顔を鏡越しにシュナイゼルが見つめている。
「・・・つれないな」
スザク、とその薄い唇が動くだけで、洗面台についていた手が震えた。
自分からまずい場所に逃げ込んだことにようやく気付いた時には、既に鍵を掛けられていた。
わざとゆっくりと距離を詰めたシュナイゼルがヒタリと背後に立つ。
先刻と同じはずのその熱が形を変えていく様を見せ付けられて、スザクの顔が嫌悪に歪んだ。
泣き出しそうになるのを必死に堪えながら、いつもとは反対に映った男の冷めた双眸を睨み付ける。
本性を露にしたその紫苑は、残虐な意図に濡れていた。
「気分が悪いなら、私が診てあげようか?」
いつものように。
そう囁きながら寄せられた唇が襟足の際を吸い上げる。
同時にシャツの裾から入り込んできた大きな手が胸へと這い上がる感触に、寒気のような感覚を得て顔を背けた。
抵抗らしい抵抗は、しなかった。
もし、今喚いて助けを求めたなら、すぐにでも誰かが気付いてくれるだろう。
それができるなら、きっと・・・ずっと昔にそうしていた。
そうしなかったのは、自分にそんな権利がないことを知っていたからだ。
そして、これ以上ないくらい、似合いの罰だ。

だけど、

「・・・や、め・・・てください・・・っ!」

思わず口を突いていた。
驚いたのは、スザク自身だった。
一瞬、無表情を刻んだシュナイゼルの顔が、何とも言えず歪む。
緻密な計算の上に象られた美しい線が、いっそ鮮やかに狂うように。
ふわり、と浮いた爪先が床を掻いて、スザクは反射的に目を瞑っていた。
鈍い音を立てて、背中を強かに壁に打ちつけられる。
薄っすら開いた視界に、シュナイゼルが舌なめずりする様が見えた。
グ、と音がするほど奥歯に力を入れて口を閉ざすと、比例するように顎を強く掴まれて軋むような痛みが走る。
「・・・口を開きなさい、スザク」
落とした声に耳殻を直接舐られて、鳥肌が立った。
膝頭で足の付け根を揺すられれば、陥落は時間の問題だ。
それでも、ここで・・・この家の中で、彼のいいようにされることは耐えられなかった。
「嫌です・・・っ」
頑とした拒絶を口にする。
「ここじゃ・・・嫌だ・・・っ」
怖くて顔を見ることができない。
ピリピリとした空気がシュナイゼルの不機嫌を伝えてくる。
「そういう、ルールだったはずです・・・」
スザクに与えられた唯一の譲歩を懇願する思いで口にした。
今まで一度だって破らなかったくせに、今になってどうして。
その思いが憤りのままにこみ上げる。
睨み合うように寄せた透けるようなその紫が、探るように深く覗き込んでくる。
耐え切れずに目を瞑ると、上唇をゆっくりと吸い上げられた。
「先にルール違反をしたのは、おまえだろう?」
宥めるように言われたその言葉に、意味を推し量るようにビクリと全身が跳ねる。
彼の指すルール違反が、“過去”のそれを指しているのか・・・それとも。
全て見通しているとでも言いたげな皮肉に象られた笑みに、彼の怒りが形を成していた。

――――知られている、

その直感が、スザクから決定的に反意を削ぎ落とした。
「これは罰だということを忘れてはいけないよ、スザク」
聖人ぶった美しい顔がそう言って笑うのを、スザクは絶望的な気持ちで見送った。
白い指先の求めるままに力なく口を開けば、静かに、深く口腔を蹂躙される。
それは思いのほか優しく、却ってスザクの不安を煽った。
無意識に媚びるように縋りつくと、唇の端を傷つけるように強く噛まれる。
ジワリと広がった血の味に、錆び付いた記憶までも掘り起こされるようだった。

「おまえにはもう私しかいないのだと、覚えておきなさい」

何か言わなくては、と頭の中が言葉を探す。
シュナイゼルの怒りを宥めるための言葉か。
でなければ、言い訳か。
違う。
本当に知りたいことは、彼が・・・何をどこまで知っているかだった。
「シュナイゼルさん・・・」
どうして、と思わぬ言葉が口を突いた。
しかし、シュナイゼルが耳を寄せるより早く、控えめなノックがドアを打つ。

「あの・・・スザク様?大丈夫ですか?」

料理番のメイドの声だった。
なかなか戻ってこないスザクを心配して様子を窺いに来たらしい。
もしかすると、物音も聞こえていたのかもしれない。
未練を残すように離れたシュナイゼルの腕から素早く抜け出して、手の甲で唇を拭う。
感覚の薄まった手で力任せにドアを引くと、思ったよりも勢いよくドアが開き、スザクはもちろん、エプロンを片腕にかけたままの女も驚いて身を引いた。
が、それも一瞬のことで、スザクの顔を見るなり、血相を変えて詰め寄ってきた。
「スザク様!どうされました?ひどいお顔の色で・・・」
「なんでも・・・。もう、大丈夫だから・・・」
大袈裟だと、笑ってみせても、毎日顔を合わせている彼女には嘘が通じない。
背を撫でてくれるその厚い手を振り払ってでもここから逃げてしまいたいのに、足にはまだ十分力が入っていなかった。
「少し具合が悪いようでね・・・」
「それはいけませんね・・・」
そう嘯くシュナイゼルに、彼女はいっそううろたえた様に口元を手で覆う。
そんな茶番をどこか遠くで聞き流しながら、スザクはにこやかに笑うシュナイゼルを凝然と見つめていた。
そうだ。答えは、いつも彼が与えてくれる。
「そうだ、スザク・・・学校の帰りに病院に寄りなさい。私が診てあげよう」
望むと、望まざるに関わらず、そうして彼はスザクを支配し続けてきたのだから。


3年前、その従属を受け入れた日から、ずっと。












***

言うまでもなく、シュナ様は鬼畜です(え)。
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